デザインストーリー
進退きわまる、その一瞬を手のひらに
「前門の虎、後門の狼」——前から虎、後ろから狼に挟まれ、どちらにも逃げ場がない。古くから語り継がれてきたこの言葉は、窮地を表すと同時に、二つの強さが拮抗する緊張の美しさをも内包しています。今回のデザインは、その対比をライターの表と裏という二つの面に分けて描きました。
表と裏で完結する一本の物語
表には、墨をたっぷり含ませた筆で一気に描き上げたような咆哮する虎。荒々しい筆致のなかに金の差し色がきらめき、炎を灯すたびに猛々しさが立ち上がります。
裏に回すと、影からそっと忍び寄る狼。虎の堂々たる正面性に対して、狼は身を低くした静かな構え。動と静、攻と守。二匹は同じ墨絵の世界、同じ光のなかに置かれ、表裏をひっくり返すたびに対決の物語が続いていきます。
「両面表」という贅沢
多くのデザインは裏面を控えめな柄でまとめますが、このモデルはあえて裏も主役級に描いています。手のなかでくるりと返したときに、もう一つの主役が現れる——その意外性が、持つ人だけが知る密かな楽しみになります。
墨絵が宿す、余白の力
墨の濃淡と余白で見せる和の表現は、金属の質感と驚くほど相性がいい。塗り込めすぎず、筆の勢いとかすれをそのまま残すことで、無機質なボディに生き物の呼吸が宿ります。経年で表面に風合いが出てくると、墨の世界はさらに深みを増していきます。
こんな方へ
強さや覚悟を象徴するモチーフは、大切な節目の贈り物にも、自分への一台にもふさわしいもの。勝負の年を迎える人、新しい挑戦に踏み出す人へ、「どんな窮地でも前を向け」という静かなエールとして贈ることができます。
仕立てについて
中西工房では、図柄に合わせて表裏の濃淡や金の入り方を一台ずつ調整しています。虎と狼が同じ空気のなかで睨み合うよう、ライティングと筆致を揃えるのが職人のこだわり。世界に一つの対比を、手のひらサイズの物語としてお届けします。








