デザインストーリー
発車のベルが鳴る前に
改札を抜け、ホームに駆け込む。夕暮れの光がホーム全体をオレンジ色に染め、電車のドアが閉まるまでのわずかな時間だけが残されている。この一瞬を切り取った今回のオリジナルZIPPOライター製作は、「追いかける側」と「見送る側」、二つの視点を表裏に配置した一本だ。
新海誠風の叙情的な光の表現を下敷きに、走る少女の後ろ姿と、走り去っていく電車を見送る視線という、対になる二つの物語を側面デザインに落とし込んでいる。
表:走る後ろ姿と、消えない一言
表面には、発車間際のプラットホームを電車に向かって走る少女の後ろ姿を描いた。夕暮れの逆光が髪と制服の輪郭をオレンジ色に縁取り、画面全体に切なさと疾走感が同居している。
そしてこの面だけの特別な要素として、手書き風の日本語文字「また、いつか。」を、構図の一部として自然に馴染ませている。文字は主張しすぎず、しかし確実に目に留まる大きさで配置し、走る少女のシルエットと呼応するように据えた。別れの言葉でありながら、次の再会を約束する前向きな一言でもある。この短いフレーズが、写真のような一瞬の情景に「物語」としての奥行きを与えている。
裏:見送る側の視界
裏面は、表とは正反対の立場から描いた。プラットホームに立ち、走り去っていく電車を見送る視点で構成し、線路の先に広がる夕暮れの風景を中心に据えている。文字は一切入れず、光と空気の描写だけで「見送る側の静けさ」を表現した。
同じ夕暮れの光、同じ色調のオレンジとラベンダーのグラデーション、同じ画風のタッチを両面で統一することで、表と裏が同じ日の同じ時間に起きた出来事であることが伝わるようにしている。追いかける人の焦りと、見送る人の諦観にも似た穏やかさ。この対比こそが、今回のデザインの核だ。
両面で完成する、すれ違いの物語
「また、いつか。」という言葉は、走っている本人が心の中で呟いた独り言かもしれないし、見送る側が電車の窓越しに伝えたかった言葉かもしれない。どちらの視点から読んでも成立するように、あえて発話者を特定しない余白を残した。
ZIPPOライターを開くたびに表が見え、閉じるときに裏が視界に入る。この開閉の動作そのものが、「追いかける」と「見送る」を交互に繰り返す小さな儀式のようでもある。手のひらの中で、二つの視点が入れ替わり続ける構成にしている。
文字を「絵の一部」として扱う難しさ
今回のデザインで特に注意したのは、手書き文字を単なるテロップとして浮かせるのではなく、構図に溶け込む一要素として扱うことだった。文字の書体は少女の躍動感を邪魔しない柔らかい手書き風にし、配置も光の帯に沿わせることで、読む前に「絵」として目に入るよう調整している。
裏面には意図的に文字を置かず、光と構図だけで語らせる形にした。表裏で情報量に差をつけることで、見る順番によって印象が変わる仕掛けにもなっている。
側面レイアウトの工夫
限られた縦長の面積の中に、走る少女のシルエット、電車の輪郭、夕暮れの光、そして手書き文字までを詰め込むのは簡単ではない。優先順位をつけ、まず光の帯の方向を決め、その流れに沿って少女の走る軌道を配置し、最後に文字を光の隙間へ滑り込ませるという順番で構成を組み立てている。
裏面は逆に「引き算」の構図にした。要素を絞り、線路の消失点へ視線が抜けていくシンプルな構成にすることで、表の情報量の多さと対比させ、見送る側の静かな余韻を強調している。表裏を続けて眺めたときに、賑やかさと静けさの振れ幅そのものが、二人の距離感を物語るようにした。
贈り物としての一本
進学や転勤、卒業など、誰かと少し距離ができる瞬間に贈る一本としても似合うデザインだと思う。「また、いつか。」という言葉は、別れを惜しむだけでなく、次に会える日を信じている前向きな響きを持っている。渡す相手との関係性によって、表を自分側の物語として、裏を相手側の物語として読み替えることもできる、余白の多い一本に仕上げた。
自分用に選ぶ場合も、忙しい毎日の中でふと誰かを思い出すきっかけとして、ポケットの中に忍ばせておきたいオリジナルZIPPOだ。
想定するシーン
通学や通勤の途中、あるいは誰かとの別れ際に見せる何気ない一瞬。このデザインは、そんな日常の中の小さなドラマを愛おしく思う人に向けて作った。旅立つ人にも、見送る人にも、それぞれの立場で読み解けるオリジナルジッポーとして、長く手元に置いてもらえたら嬉しい。











