デザインストーリー
坂の途中で振り返る街
港町の坂道を上りきったところで、つい足を止めて振り返ってしまう瞬間がある。重なり合う屋根、電線、遠くの海。そんな見慣れているはずの景色が、光の角度ひとつで別の顔を見せる——このオリジナルZIPPOのデザインは、そんな「振り返りの一瞬」を側面に閉じ込めた一本です。
表面:白い雲が流れる正午
表側に描いたのは、まだ日が高い時間帯の港町です。坂の上から見下ろす屋根瓦の重なりは、遠近感を強調するために手前を大きく、奥へ行くほど小さく描き分けました。空には輪郭のはっきりした白い雲がいくつも浮かび、青は薄めのグラデーションで、まぶしさよりも澄んだ空気感を優先しています。屋根の色は焼き瓦のオレンジと灰色を交互に置き、単調にならないようリズムを作りました。
裏面:同じ街が灯りをともす夕方
裏側は、表とまったく同じ構図・同じ建物の輪郭を保ったまま、時間だけを夕方へ進めています。空は橙からすみれ色へ溶けるグラデーションに変わり、家々の窓にはぽつぽつと灯りがつき始めます。昼の情景から時間が経過した「その後」を描くことで、片面だけでは成立しない物語がライター一本の中に生まれます。ポケットから取り出すたびに、朝と夜、行きと帰り、そんな一日の往復をふと思い出してもらえたら——というのが今回のテーマです。
デザインの見どころ
重なる屋根が生む奥行き
坂の街を描くとき一番こだわったのは、屋根の重なり方です。手前の屋根の稜線が奥の屋根の一部を隠すように配置することで、平面のイラストでも奥行きが生まれます。本体という小さなキャンバスの中でも、この重なりのリズムがあるだけで景色に厚みが出ます。
昼と夕、二つの空気
同じ構図でも、光源の位置と色温度が変わるだけで街の性格はがらりと変わります。昼は開放的で少し他人行儀な街、夕方は窓の灯りのぶんだけ人の気配が濃くなる街。表裏を見比べることで、その変化を手のひらの上で確認できます。
制作背景とこだわり
新海誠作品的な、逆光と絵画タッチの光表現に強く影響を受けたシリーズの一本です。写真のようにリアルではなく、あくまで「記憶の中の風景」に寄せた筆致を意識しました。旅先で坂を上りきったときのふとした達成感、そこで見る景色の美しさ——そういった個人的な体験に近い感情を、デザインを通して呼び起こせたらと考えています。
側面の限られたスペースに情景を落とし込む際は、細部を描き込みすぎないことも大切にしました。情報量を絞ることで、遠目に見たときの印象が強くなり、近くで見たときには筆致の柔らかさに気づいてもらえる、そんな二段階の見え方を狙っています。屋根の連なりと空の対比だけで、旅先の記憶が呼び起こされるような、そういう静かな強さを目指しました。
こんなシーンに
通勤や旅先での小休止、ふと坂の上から街を見下ろしたときのような、日常の中の小さな高揚感を思い出させてくれる一本です。喫煙具としてはもちろん、坂の多い港町が好きな方、旅の記憶をそっと持ち歩きたい方への贈り物にも向いています。オリジナルジッポーとして一つひとつ丁寧に仕上げますので、経年変化とともに景色の色合いも少しずつ味わいを増していくはずです。
仕上がりについて
側面ならではの縦長の構図を活かし、屋根と空の比率にもこだわって配置しています。Zippoライターのカーブに沿って絵柄が自然に見えるよう、際の処理も含めて丁寧に仕上げる予定です。手に取ったときに、坂道の途中で振り返った、あの一瞬の空気をふと思い出してもらえたら嬉しいです。
質感へのこだわり
金属の側面という素材の特性上、色の彩度や境界線の描き方にも通常のイラストとは違う調整が必要になります。特に夕方側の橙色は、光を反射する金属の質感と重なることで実物の輝きが増して見えるよう、あえて彩度を高めに設定しました。逆に昼側の青空はやや抑えた発色にすることで、二つの面を並べたときに主張がぶつからず、自然に視線が行き来するバランスを意識しています。
想定している使い方
デスクの上に置いて日々眺めるもよし、旅行や出張のお供にポケットへ忍ばせるもよし。表と裏、どちらの面を上にして置くかで気分を選べるのも、両面ストーリー仕立てならではの楽しみ方です。朝は昼面を、一日の終わりには夕方面を上にして机に置く、というような使い方をしてくださる方がいたら、それはデザイナー冥利に尽きます。
こうした小さな儀式めいた楽しみ方も含めて、この街並みのデザインが日常に寄り添う一本になれば幸いです。港町特有の坂道と屋根の重なりは、実在のどこか特定の場所をモデルにしたものではなく、いくつかの記憶の中の風景を組み合わせた、いわば「心の中の港町」です。だからこそ、見る人それぞれが自分の知っているどこかの景色を重ねて楽しんでいただけるのではないかと思っています。











