デザインストーリー
灯りひとつで、世界が変わる
電気を消して、蝋燭に火を灯すだけで、同じ部屋がまったく別の場所になる。揺らめく炎は、静かな緊張感と同時に不思議な安心感をもたらしてくれる。今回のデザインは、そんな蝋燭の灯りの下で古い革表紙の本を読む女性を描いた。暗がりの中に浮かび上がる横顔と、その頬を照らす暖かなオレンジの光が主題だ。
停電の夜、仕方なく灯した蝋燭の明かりの下で過ごした数十分を、妙に鮮明に覚えているという話をよく聞く。普段は当たり前にある電気の灯りがなくなったとき、初めて灯りそのものの存在に気づかされる。そういう非日常の記憶を、あえて日常の道具の中に描き込みたいと思ったのが、このデザインの出発点だ。
炎の揺らぎが生む、一瞬ごとの表情
蝋燭の光は、電灯の光と違って一定ではない。わずかに揺れるたびに、影の濃さや顔にかかる光の角度が変わっていく。この「一瞬ごとに違う表情」を描くことが、今回のイラストで最も意識した部分だ。静止画でありながら、次の瞬間には少し違う光が差し込んでいそうな、そんな揺らぎの気配を色のグラデーションに込めている。
炎の色そのものも、根元は白に近い黄色、中腹はオレンジ、先端に向かうにつれて赤みを帯びるよう細かく塗り分けた。この色の変化は、炎という現象を写実的に見せるだけでなく、絵全体に呼吸しているような生命感を与えている。
さらに、炎の周囲ににじむようなハレーションを薄く重ねることで、光源そのものが発光しているような効果を狙った。輪郭をくっきり描き切ってしまうと、途端に絵が硬くなる。あえて境界を少し曖昧にぼかすことで、目には見えないはずの熱の揺らぎまで感じ取れるような表現を目指している。
深い陰影と、暖かな灯りの対比
背景は深いブルーブラックで沈め、そのぶん炎の暖色をより際立たせる構成にした。明暗のコントラストを強めることで、蝋燭という光源そのものが物語の主役であることを伝えている。革表紙の質感や金の縁飾りにも、この暖かな灯りが反射するよう描き込んだ。
革表紙という、時間を纏った質感
本そのものの佇まいにもこだわった。新品の本ではなく、何十年も、あるいは何代にもわたって読み継がれてきたような、使い込まれた革表紙を想定している。角の擦れ、金の箔押しの剥がれかけた輪郭、指の跡がうっすらと残るような質感。こうしたディテールは、蝋燭の光の下でこそ美しく映える。強い照明の下ではただの古びに見えるものが、揺らめく炎に照らされると、積み重ねてきた時間そのものの美しさに変わる。そんな対比を意識して描いている。
裏面に灯る、もうひとつの炎
裏面は、揺れる蝋燭の炎と本の背表紙をクローズアップで描いた。表面が「人と灯り」の情景なら、裏面は「灯りそのもの」を主役にした情景だ。同じ炎の色、同じ深い影の使い方で統一することで、表裏を通して「灯りの下の読書」という一つの時間が続いていくように構成している。
背表紙に刻まれたタイトルの文字は、あえて判読できるほど鮮明には描いていない。誰の、どんな物語かを限定しないことで、手にした人それぞれが自分の読みたい本を重ね合わせられるようにしたいと考えたからだ。
背表紙の革にわずかに走るひび割れや、綴じ糸の緩みまで描き込んだのは、この本がまだ現役で読まれ続けている証を残したかったからだ。飾り棚に並べられたままの本ではなく、何度も手に取られ、そのたびに開かれてきた本。そういう本だけが持つ、生きた質感を裏面にも宿している。
火を灯す道具が、灯りを描くということ
このオリジナルZIPPOライターは、実際に火を灯す道具でありながら、デザインそのものも「灯り」をテーマにしているという点が面白いところだ。ポケットの中で眠っている間は静かな一本の金属だが、蓋を開けて火を灯した瞬間、手の中の小さな炎と、側面に描かれた蝋燭の炎が重なり合う。日常のなにげない一瞬に、絵と現実の灯りが呼応するという仕掛けを、このデザインには忍ばせている。
静かな夜に寄り添う、一本として
夜、静かに本と向き合う時間が好きな人へ。丁寧な仕上げのジッポーライター製作を通じて、その揺らめく灯りの記憶を日々のポケットに忍ばせてほしい。派手さよりも、深い陰影の中にある暖かさを大切にした一本だ。
一日の終わり、部屋の灯りを落として、このライターとともに静かな時間を過ごす。そんな夜の習慣を持つ人の傍らに、この一本がそっと灯りを添えられたらと願っている。











