デザインストーリー
窓辺という、読書のための特等席
読書には、本の中身と同じくらい「どこで読むか」が大事だという人がいる。ソファでも、カフェでも、ベッドの中でもいい。けれど窓辺の椅子ほど、読書という行為に似合う場所は少ない気がする。今回のデザインは、そんな窓辺の椅子にすっと収まり、本を胸元に抱えながら外をぼんやり眺める女性を描いた。
引っ越しのたびに、真っ先に窓辺に椅子を置く場所を決めるという人に会ったことがある。日当たりのいい時間帯を確かめ、外の景色との距離を測り、そこに小さな読書のための特等席をつくる。そうした「自分だけの居場所」への愛着が、このイラストの出発点になっている。
ページを閉じた瞬間の、余白の時間
面白いのは、彼女がページを読んでいる最中ではなく、本を閉じて外を眺めている瞬間を切り取っている点だ。読書の合間にふと訪れる、思考が本の世界から現実へと戻ってくる、あの数秒間。物語の続きを頭の中で反芻しているのか、それとも窓の外の景色に気を取られているのか。そのどちらとも取れる曖昧さを、あえて残した。
この一瞬を選んだのには理由がある。読書のクライマックスを描くよりも、読み終えたあとの余韻や、少し立ち止まって考える時間の方が、多くの人の記憶に残っているのではないかと考えたからだ。本を閉じても、物語はすぐには終わらない。頭の中でゆっくりと続いていく、その静かな延長線を絵にしたかった。
指はしおりの代わりにページの間に軽く挟まれたままで、完全に本を手放してはいない。いつでもまた続きに戻れる、という安心感を込めたポーズだ。読み終えることをゴールにせず、いつまでも本のそばにいたいという気持ちを、この曖昧な姿勢に託している。
昼下がりの光と、柔らかな色調
色調はクリームとダスティローズを基調にした、優しく暖かい昼下がりの光を意識している。派手なコントラストは避け、頬や髪にかかる光のグラデーションを丁寧に描くことで、時間そのものがゆっくり流れているような質感を目指した。カーテン越しの光は、直射日光よりもずっと柔らかく、彼女の輪郭を包み込んでいる。
椅子の角度と、視線の抜けるところ
構図を決める段階で最も時間をかけたのが、椅子の角度と彼女の視線の向きだ。真横からだと窓の外の景色が閉じてしまい、正面からだと表情に寄りすぎて余白の時間らしさが薄れる。何度も角度を試した末、椅子をわずかに斜めに配置し、視線の先に窓の外の光の抜けを感じさせる構図に落ち着いた。この抜け感があることで、絵の中に彼女だけでなく、その先に広がる時間や景色まで想像できるようにしている。
裏面のティーカップが語るもの
裏面には、窓辺に置かれたティーカップと本のクローズアップを合わせた。湯気がふわりと立ち上る様子は、時間が止まっていないこと、まだこの午後が続いていくことを示している。表面の情景と同じ光、同じ色で仕上げることで、表裏を通して「窓辺の午後」というひとつの物語が完結するように構成している。
カップの縁に残るわずかな色のにじみや、ソーサーに落ちる影の柔らかさにも手を加えた。飲みかけのお茶が少し冷めかけている、そんな時間の経過まで感じ取ってもらえたらと思う。読書に没頭するあまり、お茶が冷めるのも忘れてしまう。そんな経験に覚えのある人には、きっと共感してもらえる情景だと思っている。
何度も読み返したくなる本のように
お気に入りの本というのは、一度読んで終わりにはならないものだ。数年後にふと手に取り、以前とは違う場面で心を動かされる。そんな読み返しの体験と同じように、このデザインも一度見て終わりではなく、日々目にするたびに違う印象を受け取れるものにしたいと考えた。光の当たり方や色の重なりを丁寧に作り込んだのは、そうした長く付き合える一本を目指したからだ。
忙しさの合間に、窓辺を持ち歩く
このオリジナルZIPPOライターは、実際に窓辺で本を読む人だけでなく、そういう時間に憧れている人にも手に取ってほしいと思って作った。日々の予定に追われる中でも、ポケットの中に小さな「窓辺の午後」を忍ばせておく。そんな感覚を、丁寧なジッポーライター製作を通じて形にした一本だ。
出張先のホテルの一室でも、仕事の合間の数分でも、このライターを手にした瞬間に、あの柔らかな昼下がりの光を思い出してもらえたら。そんな小さな逃避行のような時間を届けたいと思っている。











