デザインストーリー
一本のまわりを、ぐるりと一周
正面から見た彼女と、後ろから見た彼女。このオリジナルZIPPOは、表と裏で同じ瞬間の同じ少女を、ふたつの角度から描いた表裏一対のデザインです。表面では、クリーム色のフード付きケープをつまんで、こちらに柔らかく微笑む猫耳少女。午後の金色の逆光が、栗色の髪と猫耳の輪郭をふちどっています。
そして裏面。同じ公園、同じ光の中の、彼女の後ろ姿。長い髪が背中に流れ、ケープの裾からは——表からは見えなかった、しましまのふわふわのしっぽ。
後ろ姿にだけある「ご褒美」
このデザインの仕掛けは、情報の出し惜しみにあります。正面の絵では、彼女が猫耳の少女であることしか分かりません。しっぽの存在は、裏返した人だけが知る小さな秘密です。
しかも彼女は、少しだけ頭をこちらに向けかけています。振り向く直前の一瞬。表を見て、裏を見て、もう一度表に戻すと、まるで彼女の周りをぐるりと一周して、目が合う直前に戻ってきたような感覚になる。一本の金属の上で起きる、小さな映画のような体験を目指しました。
「同じ場面」を描くということ
表裏一対のデザインで大切なのは、二枚の絵が同じ時間・同じ場所を共有していることです。光の方向、背景のボケ、ケープの皺の流れ。すべてを揃えることで、裏返す動作が「角度を変える」ことと同義になります。逆に言えば、ここがずれると、ただの別カットの寄せ集めになってしまう。地味ですが、いちばん神経を使った部分です。
日常の中の小さな振り向き
持ち主だけが知っているしっぽの秘密は、日々の小さな楽しみになります。火を点けるたび、ふと裏を確かめたくなる。誰かに見せるときは、正面だけ見せて「実はね」と裏返す。オリジナルジッポーという小さなキャンバスだからこそ、この「めくる楽しみ」が生きてきます。
「見返り」の美学
後ろ姿と振り向きは、日本美術が長く愛してきた主題です。菱川師宣の「見返り美人図」が描いたのは、振り向いた瞬間ではなく、振り向きかけのその途中。完全に向き合ってしまえば物語は終わり、背を向けたままでは始まらない。その中間にだけ、想像の余地という名の美しさが宿ります。本作の裏面の彼女も、ちょうどその途中にいます。あと数度だけ首が回れば目が合う。その「あと数度」を、金属の上に永遠に留めました。ポケットの中の見返り美人。江戸の浮世絵師たちが知ったら、きっと面白がってくれるはずです。
携帯する小さな絵画として
ZIPPOのボディは、約56ミリ×38ミリ。名刺より小さなこの面積は、しかし絵を飾るには十分な広さです。額装した絵は壁の一箇所にしか存在できませんが、ライターの絵は持ち主と一緒に移動します。通勤電車で、旅先で、夜のベランダで。取り出すたびに、午後の金色の公園が手の中に開く。美術館の絵は眺めるもの、ポケットの絵は連れて歩くもの。彼女の微笑みと後ろ姿を、日常のあらゆる場面に同行させてください。世界に一本の、いちばん小さな二枚組の絵画です。
視線の物語は続く
正面の彼女は、まっすぐこちらを見ています。後ろ姿の彼女は、振り向きかけています。つまりこの一本は、どの瞬間に眺めても「彼女と目が合う直前か、合っている最中」しか存在しません。視線の途切れない道具というのは、考えてみればなかなか得がたいものです。
金色の時間を選んだ理由
背景を午後の逆光にしたのは、一日でいちばん優しい時間だからです。朝の光は始まりに急かされ、昼の光は隅々まで照らしすぎる。夕方の手前、あの金色の数十分だけが、人をただ肯定してくれる。彼女の微笑みには、あの時間の光がいちばん似合いました。
製作のこだわり
中西工房は受注生産でオリジナルジッポーを26年作り続けてきた工房です。このデザインでは、逆光の金色のにじみと髪のハイライトが命。金属上での再現を見越して、原画の段階からコントラストを監修しています。世界に一本、あなたの手の中で彼女が振り向くのを待っています。
発送前の最終検品では、表と裏を交互に何度も眺めることになります。彼女の周りを回りながら品質を確かめる、ちょっと贅沢な工程です。お手元に届いたら、まずはゆっくり一周してみてください。しっぽが、ちゃんと待っています。








