日本神話シリーズ
ヤマトタケル 〜草薙剣を継ぐ英雄〜
荒い気性ゆえに父帝に疎まれた皇子は、叔母から授かった草薙剣を手に、西の熊襲と東の蝦夷を平定していきます。しかし妻を海に失い、剣を置いて挑んだ伊吹山で病に倒れた英雄は、白鳥となって空へ。古事記の英雄譚を約11分半のアニメで描く本作を解説します。
ショート版もあります
ヤマトタケル 〜草薙剣を継ぐ英雄〜
- ・叔母の衣で乙女に化け、熊襲建の兄弟を討ってヤマトタケルの名を得る
- ・火の野で草を薙ぎ向かい火を放ち、剣が草薙剣と呼ばれる
- ・妻オトタチバナ姫が走水の荒海に身を投げて航路を開く
- ・剣を置いて挑んだ伊吹山で倒れ、魂は白鳥となって翔ける
あらすじ前半:女装の皇子と、ヤマトタケルの名
大和の宮に、小碓命(おうすのみこと)という若い御子がいました。誰よりも強く勇ましいものの気性があまりに荒く、ある朝、無作法を諫めた兄を力余って手にかけてしまいます。父帝はわが子を畏れ、「西の熊襲の兄弟を討ち平らげよ」と命じました。体のよい追放だと悟りながらも、御子はわずかな供を連れて旅立ちます。途中で立ち寄った伊勢の神宮で、叔母ヤマトヒメは「その力で苦しむ民を護れ」と諭し、自分の衣を渡しました。熊襲の砦では新しい室を祝う酒宴が開かれようとしています。御子は髪を解いて叔母の衣をまとい、美しい乙女に化けて宴に紛れ込みました。酔った兄弟の隙を突き、懐の短い剣で兄を貫き、逃げる弟を階で組み伏せます。息絶える前の弟は御子の武勇に感じ入り、「今よりヤマトタケルと名乗られよ」と名を遺しました。
あらすじ中盤:草薙剣と、火の野の罠
凱旋した御子を待っていたのは、父の冷たい眼差しと「次は東の蝦夷を平らげよ」という新たな命令でした。再び伊勢を訪ねた御子に、叔母は神宮に祀られた神剣を託します。かつてスサノオがヤマタノオロチを斬ったとき尾から現れた剣で、動画ではその場面が短く挟まれます。あわせて火打ちの袋も渡されました。旅には妻のオトタチバナ姫が寄り添います。相模の国で豪族に「野に荒ぶる神がいる」と誘われて丈高い草の野に踏み入ると、四方の草に火が放たれました。煙と熱に囲まれた御子は、剣で足元の草を薙ぎ払って空地を作り、火打ちで刈った草に火をつけて向かい火を放ちます。二つの炎がぶつかって敵の火は勢いを失い、御子は火の野を脱して豪族の一族を討ち平らげました。草を薙いだゆえに、剣はこの日から草薙剣と呼ばれます。
あらすじ後半:走水の海と、白鳥になった魂
東の平定は進み、一行は上総へ渡るため走水の海辺に着きます。しかし舟を出すと海が荒れ狂い、海神の怒りが行く手を阻みました。「わたくしがこの身を捧げて鎮めましょう」。止める夫に「東征をここで終わらせはしませぬ」と告げ、オトタチバナ姫は菅の畳を波に敷いて荒海へ身を投じます。海は嘘のように凪ぎ、幾日か後に姫の櫛だけが浜に流れ着きました。胸に穴を抱えたまま御子は残る蝦夷を平らげ、ようやく大和への帰路につきます。その途中、伊吹山に荒ぶる神がいると聞き、「山の神ごとき素手で十分」と草薙剣を置いて山へ入りました。それが過ちでした。白い猪と化した神の毒気に当たり、深い病を得ます。剣を取り戻してふもとへ下り、能煩野の地で歩けなくなった御子は、故郷を想う歌を詠んで息を引き取りました。嘆く后や御子らの前で、墓から一羽の大きな白鳥が舞い上がり、青い空へ翔け去っていきます。
登場する神々と人々
・ヤマトタケル(やまとたける): 大和の御子、小碓命。父に疎まれながら東西を平定し、最後は白鳥となる ・ヤマトヒメ(やまとひめ): 伊勢の神宮に仕える叔母。衣と草薙剣、火打ちの袋を授けて甥を支える ・オトタチバナ姫(おとたちばなひめ): ヤマトタケルの妻。走水の海で海神の怒りを鎮めるため身を投げる ・父帝: 息子の荒々しさを畏れ、西へ東へと遠ざける。古事記では景行天皇 ・熊襲建(くまそたける)の兄弟: 西の剛勇。討たれながら御子にヤマトタケルの名を贈る ・伊吹山の神: 白い猪の姿で御子に毒気を当て、病に至らせる
見どころ:剣を継ぐとは、孤独を継ぐこと
本作は日本神話を2Dアニメで描くシリーズの最終話にあたる長編です。乙女に化ける宴の場面、草を薙いで向かい火を放つ火の野、荒海に沈む姫、白鳥が空へ翔ける結びと見せ場が続きますが、一貫して描かれるのは英雄の孤独です。功を立てるたびに父から遠ざけられ、支えてくれた妻を失い、最後は自分の慢心で剣を手放して倒れる。動画は「剣を継ぐとは力だけでなく、その栄光と孤独をも継ぐこと」と語ります。能煩野で詠まれる「やまとは 国のまほろば」と「その太刀はや」の二首は古事記に伝わる歌で、故郷と置いてきた剣への想いを重ねています。地に縛られた魂が白鳥の翼を得て自由になる結末は、悲劇でありながら救いのある終わり方です。
神話の背景:熱田神宮と白鳥陵
ヤマトタケルの物語は古事記の中巻に記されています。草薙剣は動画の歌にあるとおり御子が乙女のもとに置いて伊吹山へ向かった剣で、古事記ではその相手を尾張のミヤズヒメとしています。この剣を祀るのが愛知県名古屋市の熱田神宮で、三種の神器のひとつと伝わります。火の野の場面は古事記では相模、日本書紀では駿河とされ、静岡県の焼津や草薙の地名の由来として語られてきました。オトタチバナ姫は神奈川県横須賀市の走水神社に祀られています。御子が息を引き取った能煩野は三重県亀山市にあたり、白鳥が舞い降りたと伝わる地には白鳥陵と呼ばれる陵墓が大阪府羽曳野市などに残ります。
シリーズの前後
本作の直前は「海幸彦と山幸彦 〜竜宮の乙姫と、潮の珠〜」編です。渚に残された御子の子が初代の帝、神武天皇になると語られ、本作はそこから時代が下った人の帝の物語になります。シリーズは本作で最終話です。草薙剣の出自をさかのぼるなら「八岐大蛇 〜出雲の灯〜」編で、スサノオが大蛇の尾から剣を取り出す場面が本作の回想につながります。剣がニニギに授けられて地上へ降りた経緯は「天孫降臨 〜神々が、地上に降りた日〜」編にあります。第一話「火の神カグツチ 〜世界をつくった炎〜」から通して見ると、火と剣が神から人へ受け継がれていく流れが一本につながります。
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