日本神話シリーズ
スサノオの誓約 〜姉と弟の、賭け〜
海原を任されても母を恋しがって泣くばかりの弟スサノオは、父に追放され、別れを告げに姉アマテラスのもとへ昇ります。国を奪いに来たと疑う姉、潔白を示すため誓約(うけい)を持ちかける弟。勝った弟の驕りが天岩戸隠れを招くまでを約10分のアニメで描く本作を解説します。
ショート版もあります
スサノオの誓約 〜姉と弟の、賭け〜
- ・母を恋うて泣くスサノオが海を干上がらせ、父に追放される
- ・弟を疑ったアマテラスが髪を結い上げ、千本の矢と強弓で武装する
- ・剣から宗像三女神、勾玉からアメノオシホミミら五柱の男神が生まれる
- ・勝ちに驕った乱暴が織女の死を招き、姉は岩戸に隠れる
あらすじ前半:泣き続ける嵐の神と、父の追放
禊から生まれた三貴子に、父イザナギはそれぞれ治めるべき国を分け与えます。アマテラスには高天原、ツクヨミには夜の食国、スサノオには広い海原。ところがスサノオは大役を果たそうとせず、ひげが胸に垂れるほど長い年月、ただ泣き喚くばかりでした。その泣き声で海は干上がり、山は枯れ、川は涸れて大地はひび割れ、悪しき神々の声が夏の蝿のように湧き上がります。理由を問われた弟の答えは「亡き母上のいる根の国へ行きたい」。託した国を捨てて母を恋う我が子に父は失望し、追放を言い渡しました。うなだれたスサノオは、根の国へ向かう前に、幼い頃いつも自分をかばってくれた姉にだけは別れを告げようと、高天原へ昇ることにします。
あらすじ中盤:武装する姉と、天の安河の対峙
荒ぶる神が天へ昇ると、その足取りだけで山は崩れ、川は逆巻き、空に稲妻が走ります。鳴動を感じたアマテラスは「弟はわたしの国を奪いに来たのか」と身構え、長い髪を男のように結い上げ、腕に幾百もの勾玉を巻き、背に千本の矢を負って強弓を握りました。踏みしめた足が淡雪のように地へめり込む描写が、女神の覚悟を物語ります。「挨拶に来ただけだ」と訴える弟と、「口ではどうとでも言える」と退ける姉。天の安河を挟んでにらみ合った末、弟が持ちかけたのが誓約でした。あらかじめ結果を定めて子を生み、神意を問う神聖な賭けです。「俺の心が清ければ、生まれるのはたおやかな女神。それを潔白の証としよう」。姉はその賭けを受けて立ちます。
あらすじ後半:剣と勾玉の結果、そして岩戸
姉は弟の十拳剣を三つに折り、天の真名井の水で清めて噛み砕き、霧のように吹き出します。霧の中から生まれたのは、海の道を守る宗像の三女神でした。次に弟が姉の八尺瓊の勾玉を噛み砕くと五柱の男神が生まれ、その筆頭がのちに天孫ニニギの父となるアメノオシホミミです。「俺の剣から女神が生まれた。俺の勝ちだ」と叫ぶ弟に、姉は「女神を生んだのはわたしの玉」と返しつつ、勝ち負けより弟の昂りを恐れます。その恐れは的中しました。勝ちに驕ったスサノオは田の畦を壊し、水路を埋め、実りの田に馬を放ち、御殿を汚し、機屋に汚れた獣を投げ入れます。織女が梭(ひ)で身を傷つけて命を落とすと、はじめは弟をかばっていた姉も耐えきれず、岩戸の奥に身を隠しました。世界は闇に閉ざされ、スサノオは「勝ったと思った。だが、いちばん大切なものを壊してしまった」と悔やみます。
登場する神々
・スサノオ(すさのお): 嵐の神。海原を任されるが亡き母を恋うて泣き続け、追放される。誓約に勝って驕り、姉を岩戸へ追いやる ・アマテラス(あまてらす): 太陽の女神。高天原を治める。弟を疑って武装し、誓約のあとも弟をかばおうとする ・イザナギ(いざなぎ): 三貴子の父。国を分け与え、役目を果たさぬスサノオを追放する ・ツクヨミ: 夜の食国を治める月の神。国を授かる場面に登場する ・宗像三女神: スサノオの剣から生まれた、海の道を守る三柱の女神 ・アメノオシホミミ: アマテラスの勾玉から生まれた五柱の男神の筆頭。のちの天孫ニニギの父
見どころ:潔白と、正しさは同じか
本作は日本神話を2Dアニメで描くシリーズの長編で、約10分をかけて姉弟のすれ違いを丁寧に追います。前半の見せ場は、女神が髪を結い上げ弓を構える武装の場面です。弟を信じたい気持ちと国を守る責任のあいだで揺れる姉の表情が、アニメならではの見どころになっています。後半は、誓約の結果をめぐる二人の解釈のずれです。弟は「女神が生まれた」ことを、姉は「生んだ親の物」を根拠にし、どちらも譲りません。動画は勝敗を断定せず、姉の「その昂りの方が恐ろしい」という一言で、争点を勝ち負けから振る舞いへ移します。終盤のナレーション「潔白を示すことと、正しく振る舞うことは同じなのだろうか」が、この作品の問いです。乱暴のあとに弟が漏らす後悔の言葉も、暴れ神をただの悪役にしない描き方です。
神話の背景:宗像三女神と誓約の神々
誓約は古事記の上巻に記された場面で、生まれた神々は現在も各地で祀られています。スサノオの剣から生まれた三女神は宗像三女神と呼ばれ、福岡県宗像市の宗像大社が総本宮として知られ、広島県の厳島神社の祭神でもあります。アマテラスの勾玉から生まれたアメノオシホミミは、天孫降臨編で地上に降るニニギの父にあたり、皇室の祖先へつながる神とされます。誓約の場となった天の安河は、天岩戸編で八百万の神々が集まって相談する河原としても登場します。スサノオが恋しがった根の国は、のちに「大国主の試練」編の舞台となり、年老いたスサノオがそこを治める姿で再登場します。母を思う弟の涙が、遠い後の物語につながっていくのです。
シリーズの前後
ひとつ前は「イザナギ黄泉下り 〜闇を照らす、ひとつの火〜」編です。黄泉で妻と永遠に別れたイザナギが禊を行い、三貴子が生まれるまでが描かれ、本作はその続きとして始まります。次は「天岩戸の大宴会」編。本作の結末で岩戸に隠れたアマテラスを、八百万の神々が宴とアメノウズメの舞で誘い出す物語です。その後、乱暴の罪で再び追放されたスサノオが出雲に降りて大蛇を退治する「八岐大蛇 〜出雲の灯〜」編へ続きます。誓約、岩戸、大蛇の三本を続けて見ると、荒ぶる神が英雄に変わるまでの道筋がひと続きになります。
For You
あなただけのオリジナルZIPPOを作りませんか?
中西工房が一点ずつ制作する、完全オリジナルのZIPPOライター。受注生産・両面フルカラー印刷・¥9,800〜。
デザインギャラリーを見る →