日本神話シリーズ
因幡の白兎 〜皮を剥がれた兎と、心やさしき神〜
皮を剥がれて浜辺で泣く白兎に、八十神たちは嘘の治し方を教えて笑い去ります。荷物持ちとして最後に来た大国主だけが、真水と蒲の穂で兎を救いました。ワニを騙した兎の告白から八上姫の答えまで、古事記の因幡の白兎を約11分のアニメで描く本作を解説します。
ショート版もあります
因幡の白兎 〜めぐる、やさしさ〜
- ・八十神は嘘の治し方を教え、大国主だけが真水と蒲の穂で兎を救う
- ・ワニを騙して海を渡った兎が、自ら「自業自得」と認める場面
- ・罰を受けた者を赦し、それから手当てをする大国主のやさしさ
- ・兎の予言どおり八上姫は「いちばん後ろの方」を選ぶ
あらすじ前半:八十神の求婚の旅と、荷物持ちの末弟
遠い昔の出雲に、八十神(やそがみ)と呼ばれる大勢の兄弟神が暮らしていました。力自慢で見栄えもよく、誰もが自分こそ一番だと信じる神々です。ある日、因幡の国に八上姫(やがみひめ)という美しい姫がいるという噂が広まり、兄弟はそろって求婚の旅に出ます。その一行のいちばん後ろを歩くのが、心やさしい末弟の大国主でした。兄たちは旅の荷をすべて彼に背負わせ、「荷物持ちがお似合いだ」と笑います。それでも大国主は「みんなが無事に着くことが大事ですから」と穏やかに答え、道ばたの草や空をゆく鳥のいのちを踏まぬよう、ひとり遅れて歩いていきます。この歩みの遅さが、のちに彼の運命を分けることになります。
あらすじ中盤:岬で泣く兎と、ワニを騙した罰
気多の岬の砂浜で、兄神たちは皮を剥がれ、赤くただれて泣く白兎を見つけます。治し方を尋ねる兎に「海の水で洗い、高い丘で風に当たれ。塩は傷の薬だ」と嘘を教え、笑って去っていきました。言われたとおりにした兎は塩がしみて皮膚がいっそう裂け、「だまされたんだ」と泣き伏します。そこへ荷を背負った大国主が着き、膝をついて「笑ったりしないよ。何があったか話してごらん」と声をかけました。兎の告白はこうです。泳げないのに島から本土へ渡りたくて、海のワニ(サメ)たちに「どちらの仲間が多いか比べよう」と持ちかけ、一列に並ばせて背を跳び渡った。ところが岸に着く直前に「橋にしただけさ」と笑ったため、端のワニに捕まり毛皮を剥がれた。「自業自得ですよね」とうつむく兎に、大国主は「もう十分に痛い思いをしただろう。済んだことを責めたりはしないよ」と答えます。
あらすじ後半:真水と蒲の穂、そして八上姫の答え
大国主は傷だらけの小さな体を両手で抱き上げ、岬のそばを流れる澄んだ川へ運びます。指の腹で塩をひとつひとつ洗い流し、水辺の蒲(がま)の穂を敷きつめて、その上を転がるよう教えました。舞い上がった花粉が剥き出しの肌をやわらかく包み、みるみる新しい白い毛が生えそろいます。「あなただけが、ぼくにやさしくしてくれた」。名前を尋ねた兎は「八上姫が選ぶのはきっとあなたです」と告げて、野へ駆けていきました。因幡の宮では兄神たちがわれ先にと求婚の言葉を並べていましたが、姫は見向きもせず「いちばん後ろの、あの方をお慕いします」と答えます。物語は、これを妬んだ兄たちが幾度も大国主の命を狙うこと、それでも彼がやさしき者たちに助けられ、国を造る偉大な神になっていくことを予告して幕を閉じます。
登場する神々
・大国主(おおくにぬし): 八十神の末弟。荷物持ちとして扱われながら、傷ついた兎に唯一正しい手当てをする。のちに国を造る神 ・白兎(しろうさぎ): ワニを騙して皮を剥がれた兎。大国主に救われ、八上姫の心を予言する。のちに縁を結ぶ神として祀られる ・八十神(やそがみ): 大国主の大勢の兄神たち。力自慢で威張り、兎に嘘の治し方を教える ・八上姫(やがみひめ): 因幡の美しい姫。兄神たちではなく、いちばん後ろの大国主を選ぶ ・ワニ: 海に住むサメ。兎に騙されて橋にされ、仕返しに毛皮を剥ぐ
見どころ:やさしさがめぐる構成
本作は日本神話を2Dアニメで描くシリーズの長編で、約11分の中に「小さなやさしさがめぐって返ってくる」という一本の筋を通しています。見どころは、兎が自分の非を認める場面です。多くの語りでは兎は被害者として描かれますが、この動画では「自業自得ですよね」と自ら言わせ、それを大国主が「済んだことは責めない」と受け止めます。罰を受けた者を赦すやさしさが、手当ての前に置かれているのが特徴です。もうひとつは、真水で塩を洗い、蒲の穂で包み、白い毛が戻る一連の手当ての描写。兎の「痛くない、ひんやりして気持ちいい」という小さな声の変化で、回復の喜びを伝えます。八上姫の答えは兎の予言どおりで、荷物持ちの遅い歩みが最良の結果を運ぶという逆転が、最後の余韻になっています。
神話の背景:白兎神社と蒲の穂
因幡の白兎は古事記の上巻に記された物語で、舞台とされる鳥取県鳥取市の白兎海岸には、白兎を祀る白兎神社があります。兎が渡ろうとした島は淤岐ノ島(おきのしま)と伝わり、海岸のすぐ沖に見えます。蒲の穂の花粉は蒲黄(ほおう)と呼ばれ、古くから傷の手当てに使われた薬とされることから、この場面は日本の医療の始まりを語る神話として紹介されることもあります。ワニがサメを指すという解釈は、山陰地方で今もサメをワニと呼ぶ習慣とあわせて語られます。八上姫に選ばれた大国主は、のちに出雲大社に祀られる縁結びの神として広く信仰されており、白兎神社も縁結びの神社として知られています。
シリーズの前後
ひとつ前は「八岐大蛇 〜出雲の灯〜」編です。出雲に降りたスサノオが大蛇を退治し、クシナダヒメと結ばれるまでが描かれ、大国主はその子孫にあたります。続きは「大国主の試練 〜根の国の恋〜」編。兄神たちに命を狙われた大国主が根の国へ逃れ、そこを治める年老いたスサノオから数々の試練を課され、娘スセリビメと結ばれる物語です。本作の結末で予告された「幾度も命を狙われる」展開は、そこで描かれます。さらに「国譲り 〜地上を、天つ神へ〜」編では、国を造り上げた大国主が天つ神に地上を譲る決断をします。
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