日本神話シリーズ
国譲り 〜地上を、天つ神へ〜
豊かに実った地上を治める大国主のもとへ、高天原から武の神タケミカヅチが降り立ちます。「この国を譲るか」。長男コトシロヌシは静かに承諾し、次男タケミナカタは力比べに敗れて諏訪へ。壮大な宮を条件に国を譲る古事記の国譲りを、約12分の2Dアニメで描いた本作を解説します。
ショート版もあります
国譲り 〜力ではなく、譲る強さ〜
- ・先に遣わされた二柱の使者は地上に馴染んで戻らなかった
- ・稲佐の浜で剣の切先に座るタケミカヅチの登場
- ・兄は静かに承諾、弟は力比べに敗れて諏訪へ
- ・壮大な宮を条件に国を譲り、出雲大社の起源となる
あらすじ前半:帰ってこない使者たち
天には高天原、その下には葦原中国(あしはらのなかつくに)と呼ばれる地上があります。数々の試練を越えた大国主の手で荒れ野は田となり、秋には黄金の稲穂が垂れ、市には海山の幸が並びました。「この国のひとつひとつの灯がわしの誇りだ」と語る王の願いは、この豊かさが続くことだけ。しかし高天原の神々は、この地は天つ神の血を引く者が治めるべきだと考えます。最初に遣わされた神は大国主の人柄と地上の豊かさに心を奪われ、三年経っても復命しません。次の神は大国主の娘と結ばれ、八年経っても便りがない。業を煮やした高天原は、懐柔されない強い神を選びます。雷を司り剣の威を帯びた武の神タケミカヅチでした。
あらすじ中盤:波の上に逆さに立てた剣
補佐の神を伴い天の浮橋を渡ったタケミカヅチは、出雲の西の渚、稲佐の浜に降り立ちます。腰の長剣を抜いて波頭に逆さに突き立て、その切先にあぐらをかいて座るという、常識はずれの登場でした。「これが天つ神の武だ」。噂を聞いた大国主はひとり渚へ歩み出て、天と地の神が向かい合います。「速やかにお譲りいただこう」と迫られた王は、汗して築いた地を手放すのは身を削るに等しいと苦しみながらも、即答を避けました。「これはわし一人の国ではない。答えは息子たちに委ねよう」。大国主には性格の違う二人の息子がいました。穏やかな兄コトシロヌシと、剛力の弟タケミナカタです。
あらすじ後半:兄の承諾、弟の力比べ、そして宮
美保の岬で釣りをしていたコトシロヌシは、父の使いから話を聞くと「逆らえば戦になり、民が傷つく。守るべきは国の形ではない」と考え、つつしんで譲ると答えます。そして船を青柴垣(あおふしがき)に変えて、その内に身を隠しました。話がまとまりかけたところへ、千人がかりの大岩を指先に乗せた次男タケミナカタが「俺は聞いておらんぞ」と現れ、力比べを挑みます。しかし掴んだ武の神の手は氷柱に、次いで剣の刃に変わり、逆に腕を若い葦のように握りつぶされ、宙へ投げ飛ばされました。東へ逃げた次男は信濃の諏訪の湖で追いつめられ、「この地から一歩も出ない」と降ります。稲佐の浜に戻った武の神に、大国主はついに答えました。国は譲る、ただし天の宮にも劣らない壮大な宮を出雲に建ててほしい、と。
登場する神々
・大国主(おおくにぬし): 葦原中国を築いた国つ神の王。答えを息子たちに委ね、宮を条件に国を譲る ・タケミカヅチ: 雷と剣の武の神。稲佐の浜で剣の切先に座り、譲るか否かだけを問う ・コトシロヌシ: 大国主の長男。美保の岬で釣りをする穏やかな神。民のために争わず退く ・タケミナカタ: 次男。大岩を軽々と持つ剛力の神。力比べに敗れ諏訪の地に留まる ・二人の使者: 先に遣わされ、地上に馴染んで戻らなかった神々。動画では名前を出さず描かれる ・ニニギ: 鎮まった地上へ次に降りる天照の孫。結末で名前だけ語られる
見どころ:譲ることで遺るもの
本作は日本神話を2Dアニメで描くシリーズの長編です。戦闘場面は力比べの一幕だけで、物語の重心は「答え方」に置かれています。武の神が要求するのは是か非かの一言だけ。それに対して父は民の暮らしを理由に即答を避け、兄は民の笑顔を理由に退き、弟は力で押し返そうとして敗れます。三者三様の答えが、ひとつの国の行方を決めていく構成です。結末で大国主は目に見える地上を譲り、目に見えない幽世(かくりよ)を司ると宣言します。「争えばすべてを失った。譲ったゆえにわしの宮は永く遺った」という独白が本作の主題で、負けの物語ではなく選択の物語として国譲りを描き直しています。
神話の背景:出雲大社と相撲の起源
大国主が求めた壮大な宮は出雲大社のはじまりだと語り継がれ、動画でも柱を打ち込み千木をそびえさせる建築の場面が描かれます。武の神が降り立った稲佐の浜は島根県出雲市に実在し、旧暦十月に八百万の神々を迎える神迎えの浜として知られます。動画の終盤で触れられる、年に一度神々が出雲に集うという伝えは、いわゆる神在月の話です。コトシロヌシが釣りをしていた美保の岬は島根半島の東端で、松江市美保関町の美保神社に祀られています。タケミナカタが留まった諏訪の地には諏訪大社があり、武の神タケミカヅチは鹿島神宮の祭神として知られます。二神の掴み合いが相撲の起源とされることも、動画のナレーションで語られます。
シリーズの前後
本作の直前は「大国主の試練 〜根の国の恋〜」編です。兄神に殺され根の国へ逃れた末弟が、スサノオの試練を越えて宝を持ち帰り、葦原の国の王になるまでが描かれます。本作冒頭の豊かな地上は、その国造りの成果です。続きは「天孫降臨 〜神々が、地上に降りた日〜」編。鎮まった地上へアマテラスの孫ニニギが三種の神器と稲穂を携えて高千穂に降り立つ物語で、本作の結末で予告される場面がそのまま描かれます。タケミカヅチの出自を知りたい方は、火の神の血から生まれた経緯を語る「火の神カグツチ 〜世界をつくった炎〜」編もあわせてどうぞ。
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