日本神話シリーズ
火の神カグツチ 〜世界をつくった炎〜
イザナギとイザナミが国と神々を生み、最後に生まれた火の神カグツチが母の命を奪う。嘆いた父は我が子を斬り、その血と体から新たな神々が生まれます。火の誕生とその代償、そして人が火を手にするまでを約11分のアニメで描いた本作を解説します。
ショート版もあります
火の神カグツチ 〜炎と、母の命〜
- ・国生み・神生みから火の神誕生までを一続きで描く
- ・母をかばうイザナミと、我が子を斬るイザナギの葛藤
- ・カグツチの血と体から雷神・水神・山の神が生まれる
- ・後半は人が火を手にして文明を築くまでを描く
あらすじ前半:国生みと神生み
物語は天と地がまだ形を持たない昔から始まります。現れた二柱の神イザナギとイザナミは、天の浮橋から沼矛で海をかき混ぜ、滴った潮が固まって最初の島が生まれました。二人は柱を立てて御殿を築き、柱を巡って出会い夫婦となります。淡路、四国、隠岐と次々に島を生み、八つの大きな島が連なってこの国の形ができました。国土が満ちると、今度は海の神、風の神、木の神、山の神、水の神、食物の神と、暮らしのもととなる神々を生んでいきます。「次は人の暮らしを照らす火の神を生もう」。そう決めた二人に、大きな代償が待っていました。
あらすじ後半:炎の子の誕生と、父の剣
生まれた御子ヒノカグツチは、その身が炎そのものでした。産声とともにあたりは火の海となり、母イザナミは深い火傷を負って衰えていきます。「あなたのせいじゃないわ」「この子がいつか誰かをあたためられますように」。そう言い残してイザナミは息を引き取りました。自分の熱が母を奪ったと知った火の御子は、暗闇にひとり取り残されます。イザナギは妻を比婆の山に葬りますが、悲しみはやがて怒りに変わり、十拳剣を抜きました。「ぼくがいると、みんな燃えてしまうから。父さま、泣かないで」。そう言う我が子を、父はひと振りで斬ります。
血から生まれた神々と、山になった御子
しかし物語はそこで終わりません。剣を伝って落ちた血の一滴ごとに、岩を裂く神、新たな火の神、雷の神々が生まれます。のちに武の神と呼ばれるタケミカヅチも、この血から生まれたと伝わります。刃から滴る血からは水を司る龗(おかみ)の神まで生まれ、斬られた御子の体は八つに分かれて八つの山の神となりました。頭は山の高み、胴は中腹、手足は麓に。火の神は山そのものになり、地の底に宿ってやがて火山の力となります。火の神から水の神が生まれ、火と水は兄弟だった。雨が川になり海に還り雲になって山へ帰る、すべては巡るという世界観が、ここで語られます。
登場する神々
・イザナギ(いざなぎ): 国生みの男神。妻を失った悲しみから我が子を斬り、のちに黄泉の国へ下る ・イザナミ(いざなみ): 国生みの女神。火の神を産んだ火傷で命を落とす。最期まで我が子をかばう ・ヒノカグツチ: 火の神。生まれながらに炎そのもので、母を焼いたことを悔やむ幼い姿で描かれる ・タケミカヅチ: カグツチの血から生まれた武の神。国譲り編で地上に降る ・龗の神(おかみのかみ): 血から生まれた水の神。火と水が同じ源から出たことを示す ・八つの山の神: 斬られた御子の体から生まれ、火山の力を宿す
見どころ:火が人の手に渡るまで
本作は神々の物語だけで終わらず、後半で長い時が流れ、人の世へ舞台を移します。火を持たない人々は闇と寒さに震え、生のものを噛んで朝を待つしかありません。ある嵐の夜、枯れ木に雷が落ち、ひとりの若者がおそるおそる炎に近づき、燃える枝を持ち帰ります。暖をとり、食べ物を煮て、土を焼いて器を作り、鉄を鍛える。火のまわりに人が集まり、村が町になっていく過程が、2Dアニメで描かれます。「荒ぶればすべてを焼き尽くす。でも敬えば人をあたためる」。母の願いが人の世でかなえられる構成が、この動画の核です。神話と文明史をひとつの物語としてつなぐ見せ方が特徴です。
神話の背景:ゆかりの地
古事記では、イザナミは出雲と伯耆の境の比婆の山に葬られたと記され、動画でもその場面が描かれます。三重県熊野市の花窟神社(はなのいわやじんじゃ)は、イザナミの墓所と伝わる巨岩を御神体とし、カグツチもあわせて祀られることで知られています。カグツチは火伏せの神として各地の愛宕神社や秋葉神社の信仰と結びついて語られることも多く、火を扱う仕事の守り神として親しまれてきました。血から生まれたタケミカヅチは、鹿島神宮の祭神として名高い神です。火山と豊かな土という、災いと恵みの両面を一柱の神に重ねるこの物語は、火山列島で暮らす日本らしい神話といえます。
シリーズの前後
本作はシリーズの時系列でもっとも古い物語にあたります。続きは「イザナギ黄泉下り 〜闇を照らす、ひとつの火〜」編。妻を失ったイザナギが黄泉の国へ下り、見るなの約束を破って永遠の別れを迎え、禊からアマテラス、ツクヨミ、スサノオの三貴子が生まれるまでが描かれます。黄泉の闇でイザナギが灯す火は、カグツチが遺したぬくもりとして語られ、本作と対になっています。さらにその先には「スサノオの誓約」編、「天岩戸の大宴会」編と続き、姉弟の物語へつながっていきます。
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