デザインストーリー
沈黙の中に宿る力
能面は、ひとつの「沈黙した顔」だ。笑っているのか、泣いているのか——見る角度によって表情が変わる。それは見る者の内側を映す鏡でもある。能楽の舞台で演者が面をつけた瞬間、人は「人」でなくなり、神霊や精霊、あるいは亡者へと変容する。
室町時代に世阿弥が体系化した能楽は、「幽玄」という言葉でその美学を表現した。幽かで玄妙な、言葉では言い尽くせない深みのある美しさ。それを追求するために役者は一生をかける。
松竹が語る年月
裏面の松竹文様は、能楽の定番的な舞台装置でもある。松は長寿と不変、竹は成長と節義を象徴し、どちらも武家から公家まで広く愛された吉祥文様だ。能の演目「老松」「竹生島」など、植物が主役になる演目も多い。
連続文様として繰り返されることで、時間の流れそのものを可視化する。能楽が六百年以上続いてきたように、文様もまた途切れることなく受け継がれていく。
指の先で感じる「幽玄」
Zippoのフリントホイールを回す動作は、どこか能楽の所作に似ている。最小限の動きの中に、確かな意志がある。派手さはない。しかし一切の無駄がない。
この一本を手にするたびに、六百年の時間が指先をかすめていく。面の静けさと、松竹の雅やかさ。どちらも「深く、長く続くもの」への敬意を形にした。








